都合のいい作り事で現実の復讐をしていたんだ
私の好きな作品の中に、新世紀エヴァンゲリオンというアニメがある。ジャンルとしてはロボットモノなのだが、厳密にはロボットという媒体を介しての人間の心理描写に重きを置いた人間物語だ。(更に掻い摘めばエヴァンゲリオンはロボットではないのだが)
そして、その中の主人公である碇シンジ(14歳)は、親に捨てられたトラウマからか内向的で気弱い性格の持ち主であり、特に他人との接触や距離感には一歩引いた消極的な立場からの接し方をしている。それは物語終盤に差し掛かるにつれ悪化していき、彼は最終的には人に留まらず世界そのモノに対して心を閉ざしてしまうのだ。
その一連の最中で映し出される主人公の精神世界で、本記事タイトルの一文は登場する。
「都合のいい作り事で、現実の復讐をしていたのね」
都合のいい作り事とは、自分の思いのまま操れる脳内仮想世界。簡潔に言えば妄想だ。
他人との関係ばかりで悩み苦しんできた主人公は、妄想という無理矢理な現実の埋め合わせをして都合のいい様に作り変えていたのかもしれない。
「虚構に逃げて真実を誤魔化していたのね。それは夢じゃない、それはただの埋め合わせよ」
これはその後に続くセリフだ。
主人公が行っている作り事は、夢なんて優しいモノじゃない。
人間は嫌な事が起きた場合、各々によってその対処の仕方は異なる。対処法が分かっている人がいれば、何もしない人、主人公の様にあれこれ考えるだけで実際に行動はしない人、出来ない人など様々だ。
「じゃあ、僕の夢はどこ?」
「それは現実の続き」
「じゃあ、僕の現実はどこ?」
「それは夢の終わりよ」
【夢】
1.
眠っている間に、種々の物事を見聞きすると感ずる現象。
2.
現実がもつ確かさが無いこと。
はかなく、たよりがないこと。
現実を踏まえない甘い期待。
3.
現実のあり方とは別に心に描くもの。
将来実現させたい希望・理想。
【現実】
①
今,現に事実として存在している事柄・状態。
②
現に事実として与えられていること。また,そのもの。
理想に対してその素材や障害となる日常的・物質的なもの。現状。
現に存在し活動するもの。想像・虚構や可能性ではなく,現に成り立っている状態。実際の存在。実在。
③
実現すること。
都合のいい作り事をしても、世界は変わらない。夢と現実も持って生きなければ、自分は変わらない。
「希望なのよ。人は互いに分かり合えるかもしれない、ということの」
「だけどそれは見せ掛けなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。ずっと続くはずないんだ。祈りみたいなものなんだ。いつかは裏切られるんだ……僕を、見捨てるんだ」
「でも、僕はもう一度会いたいと思った。その時の気持ちは、本当だと思うから」
いよいよ物語が終わりを迎えようとする数分前、主人公は他人のいる世界へ戻る事を決心する。
そして数分後のラストシーンで、主人公は虚構でも作り事でもなく現実で現実の復讐を決行する。
その行動に対して、他人が出したのは肯定と否定。主人公の現実の復讐は未遂とも完遂とも取れるが、実際の所は分からない。
結局、現実とは肯定と否定を繰り返し繰り返され、未遂か完遂かを個人個人が自分で決めていく。
それに尽きるんじゃないかと、私は思う。終劇。